生臭い!?ワインのマリアージュ嘘ホント

突然このようなタイトルで驚かれたと思いますが、今回は少しリラックスして、ワインについてのお話をさせていただこうと思います。息抜きとしてお付き合いいただければ幸いです。
私、HESの宴会ソムリエールがお送りします。(^ー^;)

肉には赤ワイン、魚には白ワインて本当?

これは最近ではよく言われていることなのでご存知の方も多いと思いますが、肉と魚で分けるより素材の色や調理方法、使う調味料で決めるという方が良い場合が多いです。

つまり、肉でも鶏肉や豚肉など白っぽい肉なら白ワイン、魚でもマグロやカツオなど赤身の魚であれば軽めの赤ワインも十分合わせられます。また、味噌煮込みなのか塩焼きなのか、或いはトマトソースやデミグラスソース、ホワイトソースなどソースの色によって分けることもできます。

・・・と、確かにこのような事は言えるのですが、しかし、こんな昔のワイン本に書いてあるような答えを誰も期待してはいないですよね?赤だとか白だとか以前にそもそもワインと魚介類って本当に合うのでしょうか?

例えば。。。
イクラや数の子、カラスミなど「魚卵とワインは合わない」とは以前から言われていることですが、魚卵以外の魚介類でもワインと合わせた時、非常に生臭くて不快な思いをした経験はありませんか?その魚介類自体は問題はなく単体で食す分には全く生臭さを感じないのに、ワインと合わせた途端、生臭さが際立ってしまったというような。。。

私は、ワインよりも、むしろビールで経験したことがあります。寿司屋や居酒屋でビールを飲みながら刺身を食べるような場面で、ビールのグラスが生臭くて嫌だなぁと思ったことが何度も。。。店のグラスの洗い方が悪いのではないかと思っていたものですが、実はこれも以下に記すような理由からだったのです!

生臭さの原因は鉄分だった!

魚介とワインに関してわりと最近の興味深い研究で、実は、生臭さの原因はワイン中に含まれる『鉄イオン』だということがわかったのです。鉄イオンには「鉄Ⅱイオン(Fe²⁺)」と「鉄Ⅲイオン(Fe³⁺)」の2種類がありますが、そのうち「鉄Ⅱイオン(Fe²⁺)」の方がその原因物質で、含有量が多ければ多いほど生臭みは強くなります。この「鉄Ⅱイオン(Fe²⁺)」はワインの他、ビールにも含まれている場合が多い事もわかっています。

 ≪ワイン中の「鉄」の由来≫
 1.ブドウ畑の土壌の成分
 2.外部からの混入(砂埃や病害虫防御の為の薬剤成分)
 3.収穫から醸造段階までの金属製醸造装置との接触による混入

ちなみに、これは日本のメルシャン株式会社(キリングループ)が行った研究で、結果が発表されると、ワインの本場ヨーロッパでも一時かなり話題になり問合せが後を絶たなかったそうです。和食の国「日本」ならではの興味深い研究と言えそうですね。

生臭さ発生のメカニズム

では、一体その鉄イオンがどう関わっているのでしょうか?
ご存知のとおり、魚介類にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)と呼ばれる脂肪酸が存在しています。いずれも特に青魚に多く含まれている必須脂肪酸で、これが酸化すると過酸化脂質へ変化してしまいます。

そして、魚介の過酸化脂質と「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が反応すると生臭み成分=(E,Z)-2,4-ヘプタジエナールが瞬時に発生するのだそうです。つまり、過酸化脂質が含まれる魚介類と「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が存在するワインを一緒にとった時、「生臭い!」と感じるわけです。

魚介の過酸化脂質を多く含む食品の代表的なものは、天日干しの干物やホタテ(生よりも茹でたもの)と言われていて、ホタテの干物はその最たるもののようです。

ワインの本場ではどうなっているの?

でも、ちょっと不思議に思いませんか?
ワインの本場フランスやイタリアでも魚介類は豊富で、昔から当然のようにワインと一緒に楽しまれていますよね。ヨーロッパにもニシンやイワシなど青魚を使った料理はありますし、南イタリアのカラスミは有名です。彼らは生臭いと感じないのでしょうか?

実は、その鍵となるのが「あぶら」でした。
欧米では大抵、油を使って焼いたり揚げたり、或いは、バターやクリーム、オリーブオイル、マヨネーズなど脂分を含むソースと一緒にサーブされる事が多いですよね。アヒージョやオリーブオイル和え、クリームソースなど脂分を何らかの形でプラスすることによって鉄分から発生する生臭みを消してくれるということも、同じくメルシャン株式会社の実験によって明らかにされていました。

また、レモンなどに含まれるクエン酸が鉄を包み込む効果を持っている為、レモンや酸度の高いワインを料理に使うのも効果があるそうです。生牡蠣にレモンを絞るのもそうですが、イタリアではカラスミもスライスしてレモンとオリーブオイルをかけたりサワークリームを添えて食べるのが主流だそうですから、生臭さは感じないというのも納得ですね。

同郷のワインと料理

そういう意味では、生魚をカルパッチョにすればオリーブオイルを使うので大丈夫そうですが、わさびと醤油だけで食べる純和食の刺身では、鉄分の多いワインと合わせることはできなさそうですよね。

しかし、しかし、です。
これもとても興味深い話なのですが、実は日本原産の甲州ブドウで作られた甲州ワインは、統計的に鉄の含有量が少ないという調査報告があるそうです。刺身などの和食と相性が良いと言われているのも納得できます。

昔から「料理にはその土地のワインを合わせる」というのが基本中の基本!これは、食材や調理法、調味料などの相性以上に優先度が高いのです。ソムリエ試験には毎回必ずワインと料理のマリアージュに関する設問がありますが、その場合は「まず同郷もの同士を選べ。それがなければ次の組み合わせを考えること。」と、先輩ソムリエからしつこいくらい教わりました。

また、日本原産の「マスカットベリーA」というブドウ品種があるのですが、こちらも鉄含有量は低めだそうですので、和食には日本のワインが比較的良く合うということが言えそうです。

生臭さを回避する方法

組み合わせを悪くする原因として、料理の過酸化脂質度合い、そしてそれがワインに含まれる「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」と一緒になることによって、生臭さが発生することはわかりました。
酸化していない新鮮な状態の魚介であれば、生でもさほど生臭みを感じさせないというのは意外ですね。

では、生臭さを回避するためにはどうしたら良いでしょうか?
次のようなことが言えそうです。

1.食材側の魚介に含まれる過酸化脂質を減らす
  ① 調理の段階でオイルやクリームを使ったり、料理にかける
  ② レモンを料理に使ったり、絞ったりする
  ③ 白ワインを使った料理にする
   白ワインで蒸したり煮込んだりすることで、あらかじめ過酸化脂質と鉄を反応させ飛ばしてしまう効果があります。

2.「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」の含有量が少ないワインを探す
 これは、成分表示がされているわけではないので判断が難しいですが、醸造方法がある程度の参考にはなります。

 ①シュール・リー製法で作られたワイン
 発酵を終えた酵母は‟澱(リー)”となるので普通はすぐに取り除かれます。「シュール・リー」とは‟澱の上”という意味で、澱を抜かずに暫くワインと接触させておくことによって旨味を引き出す醸造方法のことを言いますが、この澱が鉄を包み込むという働きをします。最終的には澱は取り除かれます。
 ②シャンパーニュに代表される瓶内二次発酵で作られたワイン
 こちらもメカニズムは①と同じで、瓶内二次発酵によって作られる場合、澱と一緒に長時間熟成させられるので、その間に鉄が吸収されていくのでしょう。
 ③シェリー、マディラ、ポートなどの酒精強化ワイン
 酒精強化ワインとは、醸造の段階であえて酸化させて作るワインを言います。これらのワイン中には「鉄(Ⅱ)イオン(「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が酸化された形の「鉄(Ⅲ)イオン(Fe3+)」」として存在するので魚介の持つ過酸化脂質と反応することがありません。

今まで、相性が悪いと言われてきた魚卵であっても、この法則に従えば、ワインとのマリアージュを楽しみ、美味しくいただくことができるかもしれませんね。

しかしながら、ここまでいろいろ書いてきて今更ですが、また、料理に合わせる美味しいワインをセレクトする事が役目のソムリエとしては、あまり大きな声では言えませんが、なんだかんだ言っても、和食に一番合うのはやっぱり日本酒ではないでしょうか?(^ー^*)
同郷のマリアージュという大原則からしてもそれは、紛れも無い事実でしょう♬

 

ところで、ワインのGMPをご存知でしょうか?

赤のGMPは、
G・・・グルナッシュ(Grenache)
M・・・メルロー(Merlot)
P・・・ピノ・ノワール(Pinot Noir)

白のGMPは、
G・・・ゲヴェルツトラミネール(Gewürztraminer)
M・・・ミュスカデ(Muscadet)
P・・・ピノ・グリ(Pinot Gris)

正解は、私の好きなブドウ品種でした♬

 

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